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心の隙間を埋めてほしくて
「馬鹿馬鹿馬鹿!どっか行っちゃえ。」
「どうせ私は馬鹿ですよ、良いんです馬鹿で。」
別棟に続く廊下で周りを気にせず怒鳴りあっているのは、宮ノ杜の六男雅とはるだった。
相も変わらず我儘放題、言いたい放題の雅にはるは、らしくなく食らいついていた。
「一体何なのさ、僕は本を読みに別棟に行くんだからね、邪魔しないでよ。」
「邪魔じゃ・・・。」
「邪魔なの。僕の視界に入るモノ全部邪魔。」
「邪魔じゃ・・・なっ・・・」
正さんはきっと私が邪魔だから晩餐会や社交の場に呼んではくださらない。
「もーなんなの、泣けば良いと思ってるわけ?」
あ、私泣いてるんだ。
「・・・あーもう、分かった。分かったから、僕が悪かった。」
「はい。」
「否定しなよ。」
「否定しません。」
雅はなんだかんだ言って涙に弱い。いや、本人達は否定するだろうが兄弟皆、涙に弱い。
はるは、雅に対しては時にそれを利用するが今回は違った。
と言いますか・・・
「折角この僕が謝ったって言うのに何さ、僕を誰だと思ってるの!!」
「雅様」
「そうだよ・・・て、違う僕が言いたいの・・・はぁ」
それでも泣き続けるはるに、雅は追い打ちをかけられなくなった。むしろ呆れて最後はため息になっていた。
「っで、どうせ正絡みでしょ?」
「・・・」
ばれている。いや、実際それしかないのだ。
私が心揺れるのはいつもあの人のせい。
「何も言わないのは肯定と同じなんだからね。って言うか、お前は我慢しすぎなんだよ。」
「雅様は我慢しなさすぎです。」
「言う様になったね。ホント。」
さっきから、機嫌が悪いのかどうなのか・・・何時もなら「すみません」と謝り癖さえ付いているのではないのかと思うほど下手に立つはるだが、今回は雅に思ったままを素直に言う。
「だって、我慢しないのは子ども見たいじゃないですか・・・」
「建前だけの大人より良いと思うけどね。」
それでも私は願う。早く大人になりたいと。
この心にある心配という隙間が早く無くなる様に。
「邪魔に、なりたくはないんです。」
「はぁ?正がお前を邪魔だって言ったの?」
「いえ。」
「じゃー邪魔じゃないんでしょ?」
なんで雅様はきっぱりと言い切れるのだろう。
言うはずが無い、正さんはお優しいから・・・
「あぁこの間の晩餐会か。女の集まりって嫌だね、他人を卑下する噂話が大好きなんだから。」
月始めに宮ノ杜の子会社の幹部の者達との晩餐会が行われた。晩餐会と言っても立食形式の所謂パーティだ。
その為か、男性陣は仕事話に花を咲かせ、女性陣はホントかウソかも分からない噂話を続ける。
「正様を罵倒する言葉には対抗しますけど。」
「自分の事は言い返せないって?」
「本当の事ばかりですから。」
自分の事は良いんですと、あっけらかんと言うはるだが、この晩餐会の時だけは聞き流さず言い返したのだ。
もちろん旦那である正を馬鹿にしたような事を言われたからだ。
そして騒ぎにならないよう、言い返されるよりも前に建前顔で気分を害しましたので。と奥様方の輪を後にしたのだ。
「っで、自分は騒ぎを作ったりして、子どもみたいに正の邪魔しかしてないって?」
「・・・はい。」
絶対に正様は気付いていたんだ。
それぐらい我慢しろと言う事なんだ。正様だって間違っていない事には怒らない。だから、使用人と結婚なんてする変わり者なんて言われても怒らない。
勇様や雅様のように、直接的に「使用人と結婚だなんて、変わっている」みたいな事を言われても「そうかもな。」と言うのだろう。
迷惑をかけたから、邪魔で・・・呼んではくださらない。
「いい気味だよ。足ぐらい引っ張ればいい。正の足掻く様も見てみたいものだね。」
「雅様!!」
「ふん。どうせ、歳の差なんて変わんないんだよ。正も勇も僕達の事なんて子ども扱いしかしないんだから諦めれば。」
つい昨日の事を思い出したかのように言う雅。
事実、はるは何度かしか見た事がないが、正はよく雅や博の頭をポンポンと叩く事がある。
それは慰めの行為であったり、励ましの意味であったり、怒る意味でもあり・・・その行動は「正様はやっぱりお兄ちゃんなんだ」と思う様な行動であった。
見ている方は微笑ましい、むしろ私には羨ましいのだが、雅様はそれが嫌らしいく、何度もやめろと言っていても治らない所をみると、癖なのだろう。
「もっともっともぉっと、邪魔をして迷惑かけちゃえよ。それでも自分を愛せって言えば?正にしがみついて愛してって願えば良い。馬鹿みたいにさ。」
言い返せなんかない。事実だ。
もっともっともっと愛が足りない。
でも、愛してくれれば愛してくれるほど心に隙間がある様な気がする。
傲慢に強欲にその隙間を埋めてほしいと言っているみたいで、自分が嫌になる。
「・・・って、いうか。そんなことで僕の行く手を止めたわけ?ホント馬鹿。」
「うっ・・・」
「馬鹿馬鹿馬鹿。」
「そう、私の妻を馬鹿扱いするな。」
俯いて歯を食いしばっていると正の声が聞こえ、反射的に顔をあげると、正は雅の頭を軽く押さえつけていた。
「何、立ち聞き?何時から聞いてたのさ!良い趣味してるよね。変態!」
「足掻く様をみてみたいとか何とか??・・・聞こえてきたんだ仕方が無いだろう。」
はるは雅が「正、やめろっ」と必死の抵抗をしているのにも気がつかず、使用人であった時の様に正を呼んだ。
はるに名を呼ばれると、雅の頭にあった手を離し、はるの頬へ指先が向けられた。
「正さっ・・・ごめんなさっ」
はるが自分の指に驚き、ビクリと体を強張らせた事が正の胸を締め付けさせた。
「はる、はる」
一気にはるの背中に手を回し彼女を引きよせ、正は愛しの名を耳元で囁く。すると、さらに体を強張らせていたはるが、すぐに体を正の胸に預けた。
「悪かったな雅。邪魔させて。」
「ふん。ホントだよ。自分のモノぐらいちゃんと管理してよね。」
実の兄のラブシーンを見せつけられた雅は、恥ずかしいやら居た堪れないやら、複雑な心持でその場を去った。
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